【長編連載小説】 『こころの座標』 (23)7章 曼荼羅の外へ―⑦
曼荼羅の内部での長い時間が、ようやく終わりを告げた。堂の扉が静かに軋み、外の光が差し込んだ瞬間、デカルトは目を細めた。淡い霧を含んだ山の空気が、頬を撫でて通り過ぎていく。その感触は、まるで長い夢の外に戻ってきたことを告げる手触りのようだった。
彼は思わず深呼吸をした。澄んだ風が肺に満ち、胸の奥に広がっていく。堂内で幾重にも重なった色と音の渦に包まれていた後の空気は、まるで別世界の息吹であった。
それは「外」ではなく、「新しい内」――心の奥深くまで通う風のように感じられた。
石段を降りると、朝露を帯びた苔が金緑に光っていた。足元の岩の隙間を、細い流れが音もなく走っている。
その水は透明で、岩肌を撫でながら、小さな葉を抱き、やがて渦をつくっては静かにほどけていった。
デカルトは立ち止まり、その繊細な動きを見つめた。
──曼荼羅の図に似ている。