2025年9月

「こころの座標」第7章ー②

小説 『こころの座標』 (17) 第7章―①

 山の奥深く、木々の葉が秋色に染まりかけた頃、朝の霧がゆっくりと谷間を下りていく。 その霧の中を、デカルトと空海は並んで歩いていた。足元の石段は苔むし、しっとりと湿り気を帯びている。踏みしめるたびに、静な音が霧の奥に吸い込まれていった。

 やがて石段が終わり、視界の先に重厚な木の扉が現れた。扉は漆黒に塗られ、金色の金具が四隅を飾っている。そこに描かれた円文と蓮の花は、時を経てもなお鮮やかで、まるで深い呼吸をしているかのように見えた。
「ここが曼荼羅の門です」 空海はそう言って立ち止まり、両の掌を静かに合わせた。