【長編連載小説】 『こころの座標』 (18) 第7章 曼荼羅への歩み―②
(2)曼荼羅の門(後編) 足を踏み出した先で、床板の響きが変わった。低く長い、洞窟の奥へ吸い込まれていくような音。 視界の奥、曼荼羅の色面がわずかに膨らみ、遠近の感覚が反転する。平面に見えたものが、からだの内側へと沈…
(2)曼荼羅の門(後編) 足を踏み出した先で、床板の響きが変わった。低く長い、洞窟の奥へ吸い込まれていくような音。 視界の奥、曼荼羅の色面がわずかに膨らみ、遠近の感覚が反転する。平面に見えたものが、からだの内側へと沈…
山の奥深く、木々の葉が秋色に染まりかけた頃、朝の霧がゆっくりと谷間を下りていく。 その霧の中を、デカルトと空海は並んで歩いていた。足元の石段は苔むし、しっとりと湿り気を帯びている。踏みしめるたびに、静な音が霧の奥に吸い込まれていった。
やがて石段が終わり、視界の先に重厚な木の扉が現れた。扉は漆黒に塗られ、金色の金具が四隅を飾っている。そこに描かれた円文と蓮の花は、時を経てもなお鮮やかで、まるで深い呼吸をしているかのように見えた。
「ここが曼荼羅の門です」 空海はそう言って立ち止まり、両の掌を静かに合わせた。