【長編連載小説】 『こころの座標 外伝:失われた時間の旅』(21)第4章 阿修羅の涙 涙の波紋——②
朝の光は、あまりにも静かに訪れた。
夜を裂くような強さではなく、ただ、闇の輪郭を少しずつ薄めていく柔らかな明るさ。
山の岩肌は淡く色づき、苔は露を含んで微かに輝いている。
空海は、まだその場に立っていた。
阿修羅が消えた岩場。
涙が落ちたはずの地面。
しかし、そこには何の痕跡も残っていない。
濡れた跡も、裂け目も、光の粒もない。
まるで、何も起こらなかったかのようだった。
だが、空海は知っていた。
何も残らない出来事ほど、深く残ることを。










