【長編連載小説】 『こころの座標 外伝:失われた時間の旅』(20)第4章 阿修羅の涙 怒りを宿す者——①
山は、泣いているようだった。 夜明け前の薄闇の中、空海は一人、山中の道を歩いていた。 風はなく、木々は静まり返っている。 それでも、どこかで水が落ちる音がしていた。 岩を伝い、苔に吸い込まれ、また滴る―― その循環が、まるで嗚咽のように耳に残る。 空海は立ち止まり、合掌した。 祈りのためではない。 この場に満ちているものを、受け取るためだった。 胸の奥に、重たい気配があった。 怒り。 だが、人が抱く怒りとは、質が違う。 それは、爆発を欲していない。 叫びも、破壊も求めていない。










