【長編連載小説】『こころの座標』 (12) 第6章―②
朝霧がわずかに晴れた山道を、ふたりは再び歩いていた。
谷に沿って流れる小川のせせらぎは、まるで内なる声のように、静かに彼らの耳に届いていた。鳥の声は空に溶け、光はまだらに木漏れ日となって足元を照らしていた。けれど、デカルトの心はその風景とは異なる、深い内奥へと向かっていた。
「空海……」
「はい」
「私は昨夜、夢の中で“私”が消えていく感覚を味わいました。顔が消え、手が消え、最後には存在そのものが霧に溶けた……。だが、不思議と恐ろしくはなかった」



