【長編連載小説】『こころの座標』 (14) 第6章―④
山を越えた風が、梢をざわめかせていた。
雲が流れ、木洩れ日が斑まだらに差し込む林のなか、ふたりは苔むした小堂の前に立っていた。
「ここは、かつて私が一人で瞑想を重ねた場所です」
空海がそう言って、そっと堂の扉を押し開けた。中は簡素だった。木の床、壁にかけられた法輪、そして中央にはわずかな灯明。だがそこには、言葉では言い表せぬ静寂が満ちていた。
「デカルト。今ここで、観照の実践を共にいたしましょう。これは“思惟”ではなく“経験”の次元です。理性を超えて、響きそのものと交わる道です」

