【長編連載小説】 『こころの座標』 (28) 第8章 世界を結ぶ座標軸—⑤
夜が明けると、町の空気は潮の匂いと共に、かすかに焙煎豆の香りを含んでいた。
漁の網を干す男たちの声、港で荷を下ろす船員のかけ声、祈りを唱える修道士の低い詠唱、そして市場へ向かう女たちの足音。
それらの音が重なり合い、一つの呼吸のように町を満たしていた。
デカルトは、その多様な声の層に耳を澄ませながら思う。
――この世界は、まるで一枚の楽譜のようだ。
誰もが別の旋律を奏でているが、全体としては一つの調べになっている。



