【長編連載小説】 『こころの座標 外伝:失われた時間の旅』 (7) 第1章 光の兆し—⑥
洞窟の出口に立ったデカルトの目の前には、まだ夜の帳が世界を包んでいた。
空は深い群青に染まり、星々はその光を弱めながらも、なお冷たく瞬いていた。
頬をかすめる空気には湿り気があり、長い沈黙のなかで吸い込まれた闇の記憶が、まだ体から抜けきっていないようだった。
一歩。石から土へ、土から砂礫へと、足元の感触が変わっていく。靴底が触れるたび、大地はわずかに振動し、それが彼自身の存在を確かめるようでもあった。
だが、その音すらもすぐに夜の静寂に吸い込まれ、あとには沈黙だけが残った。
彼は歩く。足の裏で確かめるように、一歩ずつ、慎重に。
そして心の中では、洞窟で交わされた数々の言葉がまだ反芻されていた。
問い、対話、沈黙。自分が誰であり、何を求めていたのか――その根源に触れた余韻が、彼の内側にかすかに残っていた。



