【長編連載小説】 『こころの座標 外伝:失われた時間の旅』(13)第2章 弥勒と未来問答 逆問の試練ー⑥
霧がふたたび濃くなり、空海と弥勒を包み込んだ。
先ほどまでの曼荼羅の幻視は消え去り、世界はただ白と灰のあわいに沈んでいた。
だが、空海の胸には確かな余韻が残っていた。
弥勒の逆問に答えたとき、自らの内奥に「未熟さ」と「歩むべき道」の両方を同時に感じ取ったからだ。
彼は息を整え、ゆっくりと目を開いた。
そこに立つ弥勒は、ただ静かに微笑んでいた。
もはや言葉はなく、眼差しだけが彼に注がれていた。




