【長編連載小説】 『こころの座標 外伝:失われた時間の旅』(11)第2章 弥勒と未来問答 現在の苦悩ー④
霧に包まれた空間は、静寂を極めていた。 空海の胸には弥勒との対話の余韻が残りつつも、同時に新たな葛藤が渦巻いていた。
未来に成就する慈悲――その真理の響きは確かに胸を震わせた。
だが、彼の眼には飢えに苦しむ人々、涙を流す者たちの姿が焼きついて離れなかった。
空海は一歩、弥勒に近づいた。
「未来の光が約束されているとしても、いま苦しむ者にとって、その光は遠すぎます。
今日を生き抜けない命にとって、未来は閉ざされている。
どうすれば私は、この矛盾と向き合えるのでしょうか……」
声は震えていたが、迷いではなく切実さが込められていた。




