【長編連載小説】 『こころの座標』 (27) 第8章 理性と霊性の統合—④
港は、朝の潮でわずかに膨らんでいた。 砂州の端を洗う波は、夜のあいだに運び込まれた藻の細切れを押し戻し、また連れ戻す。鼻の奥に塩の鋭さと魚籠の縄の匂いが混ざり、遠くでは錆びた滑車が鳴る。
デカルトは桟橋の根元に立ち、海に向かって吸い込む息と、吐き出す息の長さをそろえた。
第一節で得た“座標は呼吸である”という確信が、ゆっくりと胸の奥で温度を保っている。
第二節で学んだ“言葉の座”“沈黙の譲位”は、彼の舌をそれ以上に軽く、同時に慎重にした。
第三節で映り返された自己と世界の鏡像は、彼の目を少し湿らせる。
──では、ここから先、理性と霊性は、どのようにしてともに歩くのか。




