【長編連載小説】 『こころの座標』 (30)第1部 エピローグ
夕陽は、港の西に沈みかけていた。
光は黄金色の帯となって、屋根の瓦と海面のあいだをゆっくりと渡っていく。
昼の喧騒は静まり、町にはわずかな波音と風の笛だけが残った。
デカルトは宿の軒先に腰を下ろし、掌の上に一枚の紙を広げていた。
その紙には、旅のあいだに描き続けてきた十字と円、そして幾つかの線が重なっている。
けれどそれは、もはや哲学の図でも、神学の図でもなかった。
ただの「歩みの記録」――呼吸の跡であり、出会いの形だった。
空海と別れてから、すでに幾日かが過ぎた。
彼はどこか別の地で、また祈りの場を整えているのだろう。
デカルトはその姿を思い浮かべながら、紙の端に小さく書き加えた。
「理性は帰還のための道具であり、霊性は再出発のための息吹である。」
書き終えると、彼は筆を置いた。
海辺の風が、紙の角を少しだけ揺らした。
問いとは、こうして他者の息に触れたとき、新しい形に息づくものなのだ。







