【長編連載小説】 『こころの座標 外伝:失われた時間の旅』 (8) 第2章 山中の霊気—①
山道は、やがて一本の糸のように細くなった。
両側の木々は樹齢数百年を超える老樹であり、その幹には苔が深く張りつき、地を這う根はまるで山そのものの血管のように絡み合って霧がその上を流れ、やがて空海の裾を撫でた。
湿った空気の中には、古い香木が燃えたような微かな香が混じっている。
修行中に何度も嗅いだ伽羅の香り。けれど、今は人の手によるものではなく、大地そのものが発しているような自然の息だった。

