【長編連載小説】 『こころの座標 外伝:失われた時間の旅』 (9) 第2章 山中の霊気—②
蓮華の上に現れたその姿は、ただ人間の形をとっているだけであった。
けれども、空海の眼にはそれが「未来そのものの顕現」としか映らなかった。
衣は光を織り込んだように柔らかく、風に揺れるたびに色合いを変えた。
――ときに白銀。
――ときに淡い桃色。
――やがて黄金の輝きへと移り変わる。
――まるで光が時を循環させているようだった。
空海は言葉を失っていた。祈りを捧げるべきか、それともただ見つめていればよいのかさえ、判断できなかった。
胸の奥が熱を帯び、脈が速くなった。彼は自然と合掌し、額を地に近づけた。
「弥勒菩薩……未来を約束する仏よ」
声は震え、霧の中に溶けた。




