【長編連載小説】 『こころの座標 外伝:失われた時間の旅』 (6) 第1章 洞窟の哲学者—⑤
東の空がほんのわずかに明るみはじめた頃、デカルトは荒野を彷徨い、風に削られた岩山の裂け目に小さな洞窟を見つけた。
入口は腰を屈めねば通れぬほど狭く、奥の様子は外からではわからなかった。だが、外気を避けるには十分に思えた。
身をかがめ、ゆっくりと足を踏み入れる。そこには意外な広がりがあった。奥行き数メートルの空間がひらけており、湿り気を帯びた空気が静かに満ちていた。
壁面には薄く苔が生え、夜明け前の仄ほのかな光をわずかに吸い込みながら、かすかな燐光のようにきらめいている。水滴が岩の天井からぽつり、ぽつりと落ちていた。