こころの座標ー外伝1 【長編連載小説】 『こころの座標 外伝:失われた時間の旅』(26)第5章 釈迦の沈黙 語られぬ答え——①
夜の山は、すべてを包み込むように静かだった。 風はある。 だがその音は遠く、まるで空間の奥へ吸い込まれていくように消えていく。 虫の声も、葉擦れも、どこか隔てられている。 音は存在しているのに、響かない。 世界そのものが、深い呼吸の中に沈んでいるようだった。 空海は焚き火を起こさなかった。 昼に見た火。 怒りの火。 守りへ転じた火。 それらをすべて胸に収めたまま、今夜は火を持たないと決めた。
