こころの座標ー第1部 【長編連載小説】『心の座標』(5)第3章―①
小川のせせらぎが、山の静寂に染み入るように響いていた。空海とデカルトは、その細流に沿ってゆっくりと歩いていた。木々は高くそびえ、葉のすき間から光が斜めに差し込み、水面を煌めかせている。「この流れる水を“わたし”と言えるだろうか」ふいに立ち止まった空海が、声を落とすようにしてつぶやいた。デカルトは眉をひそめた。「水は、確かに形を変えながら流れている。しかし、我々の“自我”は、そうした流動的なものではなく……理性的な主体として、思考することで確かな輪郭を得るものだと、私は考えてきました」空海は黙ってうなずく。だがその表情には、どこかやわらかな違和感がにじんでいた。「では、問いましょう……」空海は再び口を開く。
